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大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)2115号 判決

控訴人・附帯被控訴人(被告) ダイハツ工業株式会社

被控訴人・附帯控訴人(原告) 田尻長次

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  附帯控訴に基づき原判決主文一項を除き次のとおり変更する。

1  控訴人は被控訴人に対し

(一)  別紙賃金一覧表の(一)欄記載の期間、毎月右各期間に対応する同表の(三)欄記載の金員及びこれに対する同表の(二)欄記載の日の翌日から支払ずみまで年六分の割合による金員並びに昭和五九年五月から本訴解雇無効確認請求にかかる判決確定日まで毎月二〇日限り一か月金一九万四三九〇円の割合による金員及びこれに対する翌二一日から支払ずみまで年六分の割合による金員

(二)  別紙一時金一覧表の(三)欄記載の金員とこれに対応する同表の(二)欄記載の日の翌日から支払ずみまで右各金員に対する年六分の割合による金員

を支払え。

2  被控訴人の本訴解雇無効確認請求にかかる判決確定日の翌日以降の賃金及び遅延損害金各請求にかかる訴えを却下し、その余の被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

四  この判決は二項の1の(一)に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本件控訴

1  控訴人

(一) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(二) 被控訴人の各請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(一) 主文一項と同旨。

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

二  附帯控訴

1  被控訴人

(一) 原判決主文二、三項を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し

(1) 別紙賃金一覧表の(一)欄記載の期間、毎月右各期間に対応する同表の(三)欄記載の金員及びこれに対する同表の(二)欄記載の日の翌日から支払ずみまで年六分の割合による金員並びに昭和五九年五月以降毎月二〇日限り一か月金一九万四三九〇円の割合による金員及びこれに対する翌二一日から支払ずみまで年六分の割合による金員

(2) 別紙一時金一覧表の(三)欄記載の金員とこれに対応する同表の(二)欄記載の日の翌日から支払ずみまで右各金員に対する年六分の割合による金員

(3) 金七〇〇万円

を支払え。

(二) 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

2  控訴人

本件附帯控訴(請求拡張部分を含む。)を棄却する。

第二当事者の主張

次に付加、補正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決の補正

1  原判決三枚目裏一行目から同四枚目表一〇行目までを次のとおり改める。

「  控訴人が昭和五二年二月九日以降被控訴人から支給されるべき賃金は、別紙賃金一覧表の(一)欄記載の期間、毎月右各期間に対応する同表の(二)欄記載の日に同表の(三)欄記載の金員と同五九年五月以降毎月二〇日限り一か月一九万四三九〇円の割合による金員及び別紙一時金一覧表の(二)欄記載の日にこれに対応する(三)欄記載の金員である。

4 (不法行為)

(一) 本件解雇は、後述するように、控訴人において被控訴人が日本共産党に所属していることを嫌悪して、懲戒事由に該当しない行為をとらえて故意又は過失により懲戒処分としてなした違法、無効のものである。それゆえ、控訴人が本件解雇が有効であると抗争して被控訴人の就労を拒否することは被控訴人に対する不法行為である。

(二) 被控訴人は控訴人による右不法行為により以下の損害を被つた。

(1) 右不法行為がなければ被控訴人は就労して右3の賃金の支給を得られたはずである。したがつて被控訴人は右賃金と同額の損害を被つた。

(2) 被控訴人は右不法行為のため本件訴訟を提起し、労働組合の支援を求める等して復職のための運動をしなければならない異常な生活をしいられ、そのため多大の精神的苦痛を被つた。これによる慰藉料は五〇〇万円を下らない。

(3) 被控訴人は右不法行為のため弁護士である被控訴人訴訟代理人らに委任して本件訴訟を提起せざるをえなくなり、そのために二〇〇万円を下らない弁護士費用を要するが、右費用は右不法行為による被控訴人の損害である。

5 よつて、被控訴人は控訴人に対し、本件雇傭契約に基づき本件解雇の無効確認を求め、右契約又は民法七〇九条に基づき昭和五二年二月九日以降の右3の賃金又はこれと同額の右4の(二)の(1)の損害金とこれに対する年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、更に、同条に基づき、右4の(二)の(2)、(3)の損害金合計七〇〇万円の支払を求める。」

2  同四枚目裏六行目を次のとおり改める。

「3 同3の事実は認める。

4 同4について

(一) 被控訴人は当審において請求の趣旨を拡張し、本件解雇が不法行為であるとしてこれによる損害賠償をも請求するが、右拡張部分、ことに慰藉料及び弁護士費用の損害を求める部分は、従前の請求と異なり、本件解雇の無効から直接導き出されるものではないから、請求の基礎が同一とはいえず、よつて、右請求の趣旨の拡張は許されない。

(二) (一)、(二)の各事実は争う。」

3  同九枚目裏七行目から同一一行目まで及び同一〇枚目裏六行目を各削除する。

二  控訴人の主張(当審)

1  本件ダンボール箱に入つていた書類について

(一) 控訴人は、労使協議制を採用し、労働協約付属規定の労使協議会規定により労使協議会を設け、経営、生産等控訴人の業務についての重要事項を協議することとしているが、その他にも各事業所(工場)単位の労使間で生産委員会が開かれている。小河原支部長は、労使協議会及び生産委員会の組合側委員であつて、右協議に出席し、控訴人の機密文書の配付を受けていた。右労使協議会規定には協議会は非公開とし、出席委員に守秘義務を課すと定められている。

(二) 本件ダンボール箱内には、小河原支部長が右(一)のとおり配付され保管していた〈イ〉労資協議会、生産委員会資料、〈ロ〉労使懇談会議事録のほか、〈ハ〉〈R〉議事録、〈ニ〉労使面接簿、〈ホ〉組合員調査票、〈ヘ〉勤務不良者綴などの機密文書が在中していたものである。

右〈イ〉には控訴人の業務上最高機密に関する資料が含まれ、〈ロ〉には伊丹工場に関する機密、〈ハ〉ないし〈ヘ〉はいずれも竜王工場移転に関する人事関係書類で控訴人と組合が共通の記録として保持していた人事関係の秘密書類である。

2  被控訴人が本件ダンボール箱を持ち出した動機について

(一) 被控訴人は、右動機は伊丹工場閉鎖後の配属先を知るためであつたと弁明するが、被控訴人の配属先については、被控訴人は在京阪神地区の工場を希望していたところ、清水伊丹工場総務課長(当時、昭和五二年一月一日付で本社総務部総務課主担当員、以下「清水主担当員」という。)は、同五一年一二月二五日に被控訴人に対して希望の工場に行ける旨伝え、同五二年一月七日池田工場に内定した旨を明確に伝えていたものであり、小河原支部長も同五一年一二月二一日にほぼ池田工場に決まると被控訴人に伝えていたのであるから、被控訴人が本件ダンボール箱を持ち出した同五二年一月一七日の時点では被控訴人が配属先について知らないはずはなく、被控訴人の右弁明は虚偽である。

(二) 被控訴人は、日本共産党の党員であり、同党ダイハツ支部は控訴人の機密資料を宣伝活動に利用したことがあること及び被控訴人は発覚すれば懲戒解雇の危険があることをも自覚しながら本件ダンボール箱を持ち出したことからすれば、被控訴人は同党のために控訴人の秘密を諜報する目的で本件ダンボール箱を持ち出したことは明らかである。

三  被控訴人の主張(当審)

1  本件ダンボール箱の入つていた書類について

右書類は組合の所有物であつて、控訴人が労使協議会等において組合に配付した資料は組合の自主的な管理に任されており、右書類は組合伊丹支部事務所に保管されていたことからすれば、控訴人が機密とする重要書類を組合に配付するはずはなく、右書類中に控訴人の主張するような控訴人の機密文書が含まれてはいなかつた。

控訴人は、本件解雇当初は被控訴人が控訴人の物品を持ち出したことを強調していたのであつて、右書類中に控訴人の機密文書が含まれていたと主張し始めたのは本件仮処分の審理段階からであつて、控訴人の右のような態度に照らせば、控訴人の主張ははなはだ疑わしいものである。

2  被控訴人が本件ダンボール箱を持ち出した動機について

被控訴人は、配属先につき昭和五二年一月二六日に初めて清水主担当員から池田工場に配属されるが配属課は未定であると聞かされたのであつて、本件ダンボール箱を持ち出した同月一七日の時点では配属先は全く聞かされておらず、清水主担当員からは被控訴人が希望する在京阪神地区の工場からは拒否されていると聞かされていたため、不安にかられ、本件ダンボール箱内に配属先の資料があるやも知れないと考えてこれを持ち出したものである。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  請求原因1の事実及び控訴人が、被控訴人に就業規則七三条一項九号、一一号、一四号、一七号所定の各懲戒事由に該当する行為があつたとして、昭和五二年二月八日付で被控訴人を諭旨解雇にする旨の意思表示(本件解雇)をし、翌九日以降被控訴人の就労を拒否していることは当事者間に争いがない。

二  当裁判所も本件解雇は無効であると判断する。その理由は次に付加、補正するほかは原判決理由三項(原判決二四枚目裏一〇行目から同三八枚目裏末行まで)と同じであるからこれを引用する。当審における証拠調べの結果は右認定を左右しない。

1  原判決二五枚目裏六・七行目の「原告本人尋問の結果」の前に「原・当審における」を挿入する。

2  同三〇枚目裏七行目の「焼却されるものであつたし、」から同一〇行目の「認め難いから」までを「焼却されるものであつたことからすれば」と改める。

3  同三一枚目裏九・一〇行目の「したがつて、」から同一二行目の「認められるし、」までを削除する。

4  同三二枚目表一一行目から同三七枚目表二行目までを次のとおり改める。

「5 次に、控訴人は、被控訴人は自己の所属する日本共産党のため控訴人の秘密を諜報する目的で控訴人の業務上重要な機密文書の入つていた本件ダンボール箱を持ち出したもので、右行為は控訴人の就業規則七三条一項一一号の「業務上重要な秘密を社外に漏らし、又は漏らそうとした」ことに該当すると主張するので検討する。

(一)  前記乙第四号証ないし第七号証、第一九号証、第三二号証、第三四号証の一、二、成立に争いない乙第九〇号証の一、当審証人宮崎宙の証言により成立を認めうる乙第九〇号証の二、第九一号証、第九四号証、原審証人小河原嘉康の証言により本件ダンボール箱及びその内容物を撮影した写真であると認めうる検乙第七号証ないし第一一号証、当審証人土師潔の証言により本件ダンボール箱の内容物を撮影した写真と認めうる検乙第一二号証ないし第一六号証、原審証人清水日佐夫、同小河原嘉康、当審証人土師潔、同宮崎宙の各証言によれば以下の事実を認めることができる。

(1) 本件ダンボール箱に入つていた書類を保管し、これを本件ダンボール箱につめた小河原支部長は、労働協約の付属規定である労使協議会規定により設けられた労使協議会や各事業所(工場)単位で設けられた労使間の生産委員会の組合側委員に選任されていたが、右協議会や委員会においては控訴人の機密事項についても協議され、控訴人側から控訴人の機密保持規定により機密文書に指定された文書が配付されることがあり、小河原支部長は右機密文書や協議事項を記載したメモを保管していた。労使協議会規定によれば、右協議会は非公開とされ、出席委員はそこで知りえた事項で控訴人又は組合が指定した機密事項を他に漏らしてはならないとの規定があるが、組合側に配付された控訴人の機密文書については控訴人はその保管につき何ら規定を設けず、配付を受けた組合側委員の責任で自主的に保管する扱いがなされている。右協議会や委員会において組合側に示された控訴人の機密事項は、これに出席した組合側委員(伊丹工場では組合伊丹支部長のみ)が知るのみであり、組合側委員は、右機密事項については、一般組合員はいうまでもなく、組合の他の役員にも一切知らせなかつた。

(2) 本件ダンボール内には、労使協議会、生産委員会資料、労使懇談会議事録、〈R〉議事録、〈R〉住宅委員会、組合員調査票と各表題が付され、〈秘〉の記載のあるフアイル綴等が入つており、その中には右機密文書に指定された文書も含まれていた。

(二)  右認定を覆すに足る証拠はないが、右(2)認定のフアイル等の具体的内容を確認しうる資料もないことからして、本件ダンボール箱内に果たして控訴人が主張するような業務上重要な機密が存していたか否か疑問が無いわけでなく、かつ、右(1)認定のように、右協議会や委員会等において示された控訴人の機密は、これに出席した組合側委員のみが知るに止まることからして、被控訴人のような一般従業員(組合員)としては、組合の文書中に控訴人の業務上の重要な機密が存在することを知らないのが通常と考えられる。

(三)  前記甲第一号証の二ないし四、第三三、三四号証、第三八号証の一、二、第三九号証、乙第五ないし第九号証、第一八、第一九号証、第五二、第五三号証、原審証人清水日佐夫、同小河原嘉康、当審証人土師潔、同宮崎宙の各証言、原・当審における被控訴人本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 小河原支部長は、昭和五一年一二月一〇日ころにも焼却すべき組合保管書類をダンボール箱二個につめ、本件ダンボール箱と同様に組合事務所前に出して清水主担当員に焼却を依頼したところ、約一か月後の翌年一月一〇日ころになつて焼却された。

(2) 本件ダンボール箱については、小河原支部長はふたを四つ組にしたままで梱包もせずに、「焼却して下さい小河原」と記載した紙をはり付けただけの状態で同年一月一〇日ごろ組合事務所前に出して焼却を依頼したものであり、このときから被控訴人が持ち出した同月一七日まで右の状態のまま右の場所に置かれていた。

(3) 右各ダンボール箱の焼却時期、方法等については、一般の作業員である被控訴人らに委ねられており、被控訴人らは他の焼却物と一緒に随時貨物自動車に積み込み池田市営焼却場へ運般して焼却することとなつていた。

(4) 前認定のように、一月一七日に被控訴人が持ち出した本件ダンボール箱が発見されて控訴人が引き取つた後は、同月末ころまで伊丹工場警士詰所内にふたが一部破損したままの状態で保管されていた。

(四)  右認定の事実からして、本件ダンボール箱内に控訴人が主張するような業務上重要な機密書類が存在していたとするならば、その保管ないし焼却方法は通常では考えられない程のずさんさであつたものと言うほかない。そして前記(二)の点を考え合せると、他に特段の事情の認められない本件において、被控訴人が右のような組合所有の本件ダンボール箱内に控訴人の業務上重要な機密に関する書類などが存在すると認識することさえ通常ありえないところである。被控訴人ら従業員に対して本件ダンボール箱内に機密文書が入つているから取扱を厳重にするように注意した旨の前記乙第四ないし第七号証、第一九号証、第三二号証、第五二号証等の各記載、原審証人清水日佐夫、同小河原嘉康の各供述は、本件ダンボール箱の右保管状況からして到底措信しえないところである。

(五)  被控訴人の本件ダンボール箱持出し動機についての控訴人の前記主張は、これを認めるに足る証拠がないのみならず、右説示の如く、本件ダンボール箱内に控訴人の業務上重要な機密が存在すると認識しえなかつたのであることからして、採用に由ないところである。

もつとも、弁論の全趣旨からして、被控訴人は、かねてから控訴人の業務方針等につき反対の言動をすることが多く、竜王工場への移転についても強く転勤を拒否し、また組合に対してもその運動方針が労使協調路線であるとして必ずしも同調せず対立することがあつたと認められることからして、本件ダンボール箱持出しの動機につき、単に被控訴人が弁明するように当時なお自己の配属先が明らかにされないことの不安から衝動的に行つたというに止まらず、他に何らかの意図があつたのではないかと控訴人が推測することも止むをえない面もあるが、それは推測の域を出ないものであり、これを認めうるような証拠はない。本件ダンボール箱持出し当時、被控訴人に対して池田工場に配属される旨通知されていたとしても、そのことから直ちに被控訴人の右持出しの動機が控訴人主張のようなものであるということもできない。

(六)  ところで、被控訴人の本件ダンボール箱持出しの動機が被控訴人の右弁明どおりだとすると、被控訴人は組合の文書から控訴人の自己に対する処遇に関する情報を得ようとしたものであり、このことは右文書中に存する人事に関する事項を知ろうとしたことにほかならない。人事に関する事項は通常秘密とされることが多く、かつ本件ダンボール箱内の人事に関する文書中には、単に被控訴人に関するものに止まらず、他の者に関する人事事項も含まれていることは当然に予期しうるところである。してみると、被控訴人が本件ダンボール箱を持ち出した行為は、少なくとも組合の所持する人事に関する秘密を漏らそうとしたものであり、かつ被控訴人に対する控訴人の処遇等は組合のみで決しうるものではなく、組合と控訴人の協議を経るものであることも予想しうるところであるから、右人事に関する事項は、控訴人の従業員に対する人事の秘密事項である場合もないとはいえない。右の人事に関する秘密が懲戒事由にいう控訴人の業務上重大な秘密にあたるか否かの点はしばらくおくとしても、右の点において被控訴人は控訴人の業務上の秘密を漏らそうとしたといえなくはない。

(七)  しかしながら、被控訴人の本件ダンボール箱持出しによつて控訴人の業務上の秘密が漏れた事実を認めうる資料はないのであり、本件ダンボール箱の内容物は組合の所有であつて控訴人の所有でないこと及び前認定のような本件ダンボール箱の保管方法のずさんさ等を考え合せると、被控訴人の本件ダンボール箱持出し行為をとらえて、就業規則七三条一項一一号の「業務上重大な秘密を社外に漏らし、又は漏らそうとした」ことに該当するとして解雇するが如きは著しく不当であり、解雇権(懲戒権)の濫用として許されないものというべきである。」

5  同三七枚目裏三行目の「5」及び同四行目の「また、」から同七行目の「認め難いし、」までを各削除する。

三  以上によれば、本件解雇は無効であつて、被控訴人と控訴人間の雇傭契約は存続しているといわなければならない。

そして、控訴人は、昭和五二年二月九日以降本件解雇を理由に被控訴人の就労を拒否していることは前認定のとおりであることからすれば、被控訴人は控訴人に対して民法五三六条二項本文により右同日以降の賃金及びこれに対する商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を請求しうるというべきである。

そこで、被控訴人の右賃金及び遅延損害金支払請求について以下検討する。

1  請求原因3の事実は当事者間に争いがない。

2  してみれば、控訴人は被控訴人に対し、昭和五二年二月九日から当審口頭弁論終結日である昭和五九年九月一八日までの賃金及び遅延損害金として、別紙賃金一覧表の(一)欄記載の期間、毎月右各期間に対応する同表の(三)欄記載の金員とこれに対する同表の(二)欄記載の日の翌日から支払ずみまで年六分の割合による金員並びに同年五月から同年九月一八日まで毎月二〇日限り一か月一九万四三九〇円の割合による金員及びこれに対する翌二一日から支払ずみまで年六分の割合による金員、別紙一時金一覧表の(三)欄記載の金員とこれに対応する同表の(二)欄記載の日の翌日から支払ずみまで右各金員に対する年六分の割合による金員を支払うべき義務がある。

3  被控訴人は、更に、当審口頭弁論終結日の翌日以降も将来にわたり毎月二〇日限り一九万四三九〇円の賃金とこれに対する遅延損害金の支払を請求するので検討するに、当審口頭弁論終結日の翌日から本訴解雇無効確認請求にかかる判決確定日までの分については控訴人の応訴態度に照らし被控訴人において予め請求する必要があると認められるが、右確定日の翌日以降においてもなお控訴人は被控訴人に対して賃金を支払わないであろうことを認めるに足りる資料はないから右確定日の翌日以降の分については予めこれを請求しうる必要性を認めることはできず、よつて右部分の請求は民訴法二二六条に違反しこれを却下せざるをえない。

四  次に、不法行為に基づく被控訴人の損害賠償請求について検討する。

1  被控訴人は、民法五三六条二項本文に基づく賃金及び遅延損害金の各請求と不法行為に基づく右賃金と同額の損害及び遅延損害金の各請求を選択的に請求しているところ、前者の請求の一部が認められることは前記三の2、3のとおりであるから、後者の請求についてはこれを判断する余地がない。

2  そこで、慰藉料及び弁護士費用の損害賠償請求について以下検討する。

(一)  控訴人は、被控訴人の当審における右請求の拡張は請求の基礎に同一性がないから許されないと主張するが、被控訴人の従前の請求は、本件解雇が無効であることに基づくものであり、当審における請求の趣旨の拡張部分は本件解雇等が不法行為を構成することに基づくものであるから、両者の請求の基礎に変更はないというべきであり、かつ、右請求の拡張により著しく訴訟手続を遅滞させるとは認められないから、控訴人の右主張は失当である。

(二)  被控訴人は、控訴人において被控訴人が日本共産党に所属していることを嫌悪して懲戒事由に該当しない行為をとらえて本件解雇をする等したことが不法行為であると主張する。

しかしながら、本件口頭弁論に顕われた一切の証拠を検討してみても本件解雇をした控訴人の目的が被控訴人の主張のとおりであることを認めうる証拠はない。

又、先に判示(引用にかかる原判決認定事実を含む。)した本件事実関係によれば、被控訴人は勤務時間内において、控訴人から命ぜられていた伊丹工場の残務整理作業中に、控訴人が組合から焼却を委託されて保管中の本件ダンボール箱をその内容物を見るために無断でひそかに右工場外まで持ち出したもので、被控訴人の右行為が控訴人主張の懲戒事由に該当しないとはいえないところである。本件においては、ただ控訴人が懲戒の種類のうち諭旨解雇を選択したことにつき諸般の事情を考慮すれば裁量に逸脱があり、解雇権(懲戒権)の濫用にあたると解さざるをえなかつたにすぎず、本訴において被控訴人はその権利を回復しえたことを併せ考えれば、控訴人が被控訴人に対する懲戒として右のような選択をなし、その就労を拒否し、本件訴訟において右解雇の有効性を主張して抗争したことをもつて、控訴人の故意又は過失による被控訴人の権利侵害があつたと認めることは相当ではなく、よつて、本件解雇に関して控訴人のした行為が不法行為を構成するとは認め難い。

してみれば、その余を判断するまでもなく被控訴人の右請求は失当である。

五  以上の次第で、被控訴人の本訴各請求は、本件解雇無効確認請求並びに賃金及び遅延損害金支払請求のうち前記三の2、3の認定内は理由があるからこれらを認容すべきであるが、右範囲を超える右各金員支払請求部分は不適法であつてこれを却下し、その余の慰藉料及び弁護士費用の損害賠償請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よつて、被控訴人の本訴各請求を右認定限度内で認容した原判決に対する控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人の附帯控訴に基づき原判決主文一項を除き本判決主文二項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九六条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井玄 高田政彦 礒尾正)

(別紙)

賃金一覧表

(一)期間(昭和 年・月)

(二)支払日

(三)賃金額(円)

五二・二

二五日

二万六一四〇

五二・三

二五日

一〇万九一五〇

五二・四~五三・三

毎月二五日

一一万九〇〇〇

五三・四~五四・三

毎月二五日

一二万八八八〇

五四・四~五四・八

毎月二五日

一三万五八一〇

五四・九

二五日

一三万六五三〇

五四・一〇

二五日

一三万七三一〇

五四・一一

二五日

一四万一一五〇

五四・一二~五五・三

毎月二五日

一四万五八一〇

五五・四~五六・三

毎月二五日

一五万五九一〇

五六・四~五六・六

毎月二五日

一六万七二九〇

五六・七

二〇日

八万三六五〇

五六・八~五七・二

毎月二〇日

一六万七二九〇

五七・三~五七・四

毎月二〇日

一六万九六九〇

五七・五~五八・二

毎月二〇日

一七万八二九〇

五八・三~五八・四

毎月二〇日

一八万〇六九〇

五八・五~五九・二

毎月二〇日

一八万六四七〇

五九・三~五九・五

毎月二〇日

一八万八七七〇

一時金一覧表

(一)年度・季

(二)支払日(昭和年・月・日)

(三)一時金額(円)

五二年夏

五二・七・一〇

三〇万〇六〇〇

五二年冬

五二・一二・一〇

三〇万九三〇〇

五三年夏

五三・七・一〇

三二万六二〇〇

五三年冬

五三・一二・一〇

三四万一一四〇

五四年夏

五四・七・一〇

三五万一二〇〇

五四年冬

五四・一二・一〇

三七万四三〇〇

五五年夏

五五・七・一〇

三八万四五〇〇

五五年冬

五五・一二・一〇

三九万一三〇〇

五六年夏

五六・七・一〇

四〇万一七〇〇

五六年冬

五六・一二・一〇

四一万八六〇〇

五七年夏

五七・七・一〇

四一万四一〇〇

五七年冬

五七・一二・一〇

四三万〇五〇〇

五八年夏

五八・七・一〇

四三万一七〇〇

五八年冬

五八・一二・一〇

四三万七一〇〇

五九年夏

五九・七・一〇

四三万六三〇〇

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 被告が昭和五二年二月八日付をもつて原告に対してなした解雇は無効であることを確認する。

二 被告は原告に対し、金一〇六一万〇八三〇円と昭和五六年九月以降毎月二五日限り月額金一六万七二九〇円の割合の金員を支払え。

三 原告のその余の請求を棄却する。

四 訴訟費用は被告の負担とする。

五 この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 原告の請求の趣旨

1 被告が昭和五二年二月八日付をもつて原告に対してなした解雇は無効であることを確認する。

2 被告は原告に対し、金一一九八万〇四五四円と昭和五六年九月以降毎月二五日限り月額金一九万一二九八円の割合の金員を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 右第二項につき仮執行宣言。

二 請求の趣旨に対する被告の答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一 原告の請求原因

1 (雇傭契約等)

被告は、各種自動車の製造販売を主たる業とし、大阪府池田市に本社工場を、京都府大山崎町、滋賀県竜王町、兵庫県川西市等に工場を有し、従業員約八二〇〇名を擁する株式会社(以下適宜被告会社という。)である。

原告は、中学卒業直後の昭和四〇年四月、被告会社と雇傭契約を結んで被告会社に入社し、被告会社技能者養成所(現ダイハツ高等学園)で三年間鋳物工としての訓練を受け、昭和四三年四月一日、被告会社伊丹工場製造課に配属され、それ以降、同工場で鋳物工として自動車部品の鋳造の職務に従事してきたが、同工場の廃止により、昭和五二年一月一日付で、被告会社総務部総務課に仮配属され、実際の職務としては、右伊丹工場の残務整理に従事していた。

2 しかるに、被告会社は、原告には被告会社の就業規則七三条一項九号、一一号、一四号、一七号所定の各懲戒事由に該当する行為があつたとして、昭和五二年二月八日付をもつて、原告を諭旨解雇にする旨の意思表示をし(以下本件解雇という)、右同日以降、原告の就労を拒み、また、同月九日以降の賃金等を支払わない。

しかし、原告は、右就業規則の各規定に該当する行為をしたことはなく、本件解雇は、その理由がないから、当然無効であり、原告は、引続き被告会社の従業員たる地位を有するものである。

3 (原告の賃金)

原告の被告会社における昭和五二年二月八日当時の賃金額は、一ケ月金一二万三六一八円(内訳、本給六万七三三〇円、職能給四万一八二〇円、以上を合わせた基準賃金一〇万九一五〇円、諸手当一万四四六八円)であり、以降被告会社では従業員に対し毎年四月に賃金値上をし、かつ毎年七月、一二月に一時金を支払つており、原告も少なくとも平均の水準による賃金値上及び一時金支給を受ける権利があるところ、原告が昭和五二年二月から同五六年八月までに支払を受けるべき賃金一時金の合計は、別紙一の賃金計算書(原告主張分)に記載の通り、合計金一一九八万〇四五四円であり、また、昭和五六年九月以降原告が毎月二五日に支払を受くべき賃金は月額金一九万一二九八円である。

なお、被告会社における賃金の支払日は、毎月二五日である。

4 よつて、原告は、被告会社との雇傭契約上の権利に基づき、被告会社との間において、本件解雇は無効であることの確認を求め、かつ、被告会社に対し、昭和五二年二月九日以降の賃金として、別紙一の「賃金計算書(原告主張分)」に記載の通りの合計金一一九八万〇四五四円と昭和五六年九月二五日以降毎月二五日限り、月額金一九万一二九八円の割合による金員の支払を求める。

二 請求の原因に対する被告の認否

1 請求原因1(雇傭契約等)の事実は認める。

2 同2の事実のうち、被告会社が原告に対し、原告に被告会社の就業規則七三条一項九号、一一号、一四号、一七号に該当する行為があつたとして昭和五二年二月八日付をもつて、原告を諭旨解雇にし、以後原告の就労を拒否していることは、認めるが、その余の事実は争う。

3 同3の事実は争う。

三 被告の主張

1 本件解雇の正当性

原告には、以下に述べる通り、被告会社就業規則七三条一項(懲戒事由)の九号、一一号、一四号、一七号に該当する行為があつたので、被告会社は、右就業規則七二条五号により、昭和五二年二月八日付で原告を諭旨解雇にしたのであつて、右解雇は適法有効である。すなわち、

(一) 原告が勤務していた被告会社の伊丹工場は、自動車用アルミ鋳物鉄鋳物などを製造する被告会社唯一の鋳物工場であつたが、被告会社の全社的な生産計画と公害問題(周辺住民の反対運動等)とから、被告会社では、これを他に移転することを計画し、昭和四九年四月頃から、労使間で交渉を行い、被告会社の従業員でもつて組織されているダイハツ労働組合(以下単に組合という)の同意を得て、被告会社の伊丹工場は、滋賀県の竜王町に移転することとなり、昭和五一年一二月下旬をもつて、被告会社の伊丹工場は閉鎖され、滋賀県竜王町に新設された竜王工場へその全部が移転した。

(二) そして、昭和五二年一月になつてからは、被告会社の伊丹工場には、残務整理作業員のみが残つて、残務整理作業に従事していたところ、組合伊丹支部の小河原支部長は、昭和五二年一月一〇日頃、組合伊丹支部の組合事務所において、組合の書類を整理し、竜王工場に送る分(ダンボール箱三個)と、焼却分とに分け、焼却分を本件ダンボール箱二箱(以下本件ダンボール箱という)に詰めた上、その蓋を四つ組にしてしめ、箱の上には何らの表示もせず、被告会社の清水主担当員に、中の書類の重要さを説明して、厳重にその焼却を依頼した。

小河原支部長が清水主担当員に右焼却を依頼した本件ダンボール箱の中には、竜王工場の転籍者についての労使の個人面接簿、労使協議会・労使懇談会・生産委員会の各議事録、配転委員会議事録、住宅対策委員会議事録等の重要機密事項を記載した書類が入つていたところ、これらの書類は、被告会社の従業員の身上に関する秘密や、被告会社の機密に属する生産計画等、労使間の信頼関係に基づいて伝達される秘密事項が含まれており、これが外部に公表、開示されると、被告会社と組合間の信頼関係が破壊され、個人の秘密、名誉が侵害毀損され、或いは、被告会社の経営上打撃を受ける虞れがあるのである。勿論これらの書類は、第一次的には組合の機密書類であるが、被告会社にとつても機密事項を含む書類であつたのである。

(三) 前述の如く、小河原支部長から清水主担当員に焼却の依頼をされた本件ダンボール箱については、清水主担当員から、残務整理作業員の監督者である作田登美雄に対し、重要書類であるので、焼却処分にするようにとの厳重な指示がなされ、さらに、右作田から残務整理作業員に対し、厳重に焼却が命ぜられた。そして、組合では、昭和五二年一月一四日頃、伊丹工場の組合事務所を最終的に整理することとなり、本件ダンボール箱を含めて、ダイハツレクレーシヨンクラブ関係の書類在中の十数箱を組合事務所に置いたが、当時、組合事務所のあつた被告会社伊丹工場の厚生棟(二階建の建物)には、伊丹工場の残務整理作業員のみが残務整理に必要なときだけ出入りすることができたに過ぎず、それ以外は、その出入口には施錠され、その北西角の入口には警士詰所があつて、警士が右厚生棟を監視しており、厚生棟全体が厳重に管理されていたから、組合ないし被告会社が、本件ダンボール箱を一週間も放置していたようなことはなかつたのである。

(四) ところで、原告は、従前は、被告会社の伊丹工場で鋳物工として就業していたところ、前述の如く、その後右伊丹工場が竜王工場へ移転したのであるから、原告も竜王工場へ転籍すべきであつたが、原告は、被告会社の誠意ある再三の説得、説明にも拘らず、これを不当に拒否し続けたので、被告会社は、昭和五二年一月から、暫定的に、原告を、被告会社の総務部総務課に仮配属し、被告会社の伊丹工場で残務整理の作業に従事させていたところ、原告は、昭和五二年一月一七日午後三時頃、当時一緒に仕事をしていた訴外松浦の隙を狙い、日本共産党の為にする諜報目的で、右工場厚生棟内の組合伊丹支部事務所前に置かれていた十数箱のダンボール箱のうち、組合や被告会社の機密事項が記されている重要書類の入つていた本件ダンボール箱二箱を、被告会社の許可を受けず、かつ、右組合の了解もなく無断で、厚生棟内の厨房の出入口から一箱ずつ密かに厚生棟の外に持ち出し、警士の目を盗んで右工場正門横(南)の食堂通用門を経て、右通用門から西に約二三・五メートル離れた訴外三谷某方横の空地まで密に運び出して、同所にこれを隠匿し、もつて右重要書類入りの本件ダンボール箱二箱を窃取した。

(五) 現在、多くの企業では、企業機密に関する情報が増えているため、情報管理については、相当の注意を払つており、企業秘密が外部に流出するのを防ぐため、従業員にその協力を求めると共に、特に文書管理には、一定の取扱要領を規定しているのが通例であるところ、原告は、昭和五二年一月当時、仮配属とはいえ、被告会社の総務部総務課に所属し、残務整理作業員として、被告会社の伊丹工場内の備品、書類等について、外部からの侵害等を防ぐべき立場にありながら、自己の任務、立場を奇貨として、組合と被告会社との間の機密に属する情報を得んとする不当な諜報の意図をもつて、前述の如く、本件ダンボール箱の窃盗に及んだものであつて、原告の右行為は、その任務からみて、被告会社に対する背信性は極めて重大であり、使用者、被用者の信頼関係を根底から覆すものである。

なお、原告の右犯行は、その後、前記三谷某から被告会社に通報されて、発覚したのである。

(六) ところで、被告会社の就業規則七三条は、被告会社の従業員に対する懲戒事由を定めているところ、その一項九号は、「許可なしに会社の物品を持出し、又は持ち出そうとした者」を、同一一号は、「業務上重大な秘密を社外に漏らし、又は漏らそうとした者」を、同一四号は、「刑法上の罪に該当する行為をなした者」を、同一七号は、「その他諸規則に違反し、又は前各号に準ずる行為をした者」を、それぞれ懲戒する旨定めているところ、原告の右各所為は、被告会社の右就業規則七三条一項九号、一一号、一四号、一七号にそれぞれ該当する。

(七) そこで、被告会社は、昭和五二年二月三日、懲戒委員会を開いて原告の処分を検討した結果、原告の前記行為と情状、過去の懲戒例等から、原告を懲戒解雇にするのが相当とする意見が大勢を占めたが、組合が態度を保留したので、その日は結論を出さなかつた。次いで、被告会社は、同月八日再度の懲戒委員会を開いて原告の処分を検討した結果、組合の同意を得て、原告を諭旨解雇とすることとし、右二月八日付をもつて、原告を就業規則七二条五号の諭旨解雇にしたのである。

(八) よつて、本件解雇は有効であつて、これにより、被告会社と原告との雇傭契約は、昭和五二年二月八日限り適法に終了したから、右雇傭契約の存続を前提とする原告の本訴請求はいずれも理由がない。

2 仮に、本件解雇が無効であり、原告が昭和五二年二月八日以降も引続き被告会社の従業員であつたとしても、右同日以降原告の受くべき賃金及び一時金の額は、別紙二の賃金及び一時金計算書(被告計算分)に記載のとおりであつて、原告主張の如き額ではない。

四 被告会社の右主張に対する原告の認否及び主張

1 前記被告会社の主張1の(一)のうち、「被告会社の全社的な生産計画と公害問題(周辺住民の反対運動等)とから」とある部分は争い、その余の事実は認める。

同1の(二)(三)の事実は争う。

同1の(四)のうち、原告がもと被告会社の伊丹工場で鋳物工として働いていたこと、被告会社が原告に対し、伊丹工場から竜王工場に移転するよう求めたが、原告がこれを拒否したこと、原告が被告会社の伊丹工場で残務整理作業をしていたこと、原告が被告会社主張の日に、被告会社伊丹工場の組合事務所から、本件ダンボール箱二個を外に持ち出したこと、以上の事実は認めるが、その余の事実は争う。

同1の(五)の事実は争う。

同1の(六)のうち、被告会社の就業規則に被告会社主張の如き規定のある点を除き、その余の事実は争う。

同1の(七)の事実のうち、被告会社が昭和五二年二月八日付をもつて原告を諭旨解雇したことは認めるが、その余の事実は争う。

同1の(八)の事実は争う。

同2の事実は争う。

2 本件解雇事由の不存在

原告が本件ダンボール箱を持出した行為は、次に述べるとおり、何ら被告会社就業規則七三条一項九号、一一号、一四号、一七号の懲戒事由に該当せず、本件解雇は懲戒事由がないのになされたものであつて、当然無効である。

(一) 就業規則七三条一項九号の非該当性

(1) 原告は、前記の通り、被告会社の伊丹工場が廃止された後、同工場で残務整理の作業に従事していたのであるが、昭和五二年一月初め頃から、右工場の共同棟(厚生棟)二階にある組合(ダイハツ労働組合)の伊丹支部事務所横に、組合の書類の入つた組合所有の三個のダンボール箱が放置されており、これに貼付された紙に、赤マジックで、「焼却して下さい。小河原」(小河原は、当時の組合の伊丹工場支部長)と記載されていたところ、これを発見した原告は、それまでに原告の思想信条を理由として被告会社から種々の攻撃をかけられ、さらに原告の加入している組合もこれを支持してきたことや、当時伊丹工場の廃止に伴う原告の配転先が終局的に定まつていなかつたことなどから、右ダンボール箱の中には、原告の配転に関する被告会社と組合との交渉の経過等が記載されている文書が存在するのではないかと考えて、深い考えもなく、これを持ち出したのである。

(2) 右の如く、原告が持ち出した本件ダンボール箱は、組合の所有物品であつて、被告会社の所有ではなく、しかも焼却さるべき不要品であつたのである。

そして、本件ダンボールの中には、被告会社主張の如く、労使の個人面接簿、生産計画書その他の重要書類が入つていたようなことは絶対にないのである。何故ならば、被告会社が他社に漏れては困るような重要な生産計画書等を、組合の一介の支部長に過ぎない小河原伊丹支部長や、被告会社の一課長に過ぎない清水課長に渡すようなことはあり得ないし、また、右のような重要書類の入つているダンボール箱が、組合事務所横に長期間放置されているようなことはあり得ないからである。

(3) 仮に、組合が、右ダンボール箱を焼却のため、被告会社に委託したために、その占有が被告会社にあつたとしても、ダンボール箱は、組合事務所の前に放置してあつたものであり、その表面には、当時組合の伊丹支部長名で、焼却を依頼する旨の記載があつたのであるから、原告には、当時右ダンボールが被告会社の所有し占有する物品であるとの認識はなかつたのである。また、右委託の実態は、重要物品を金庫等に保管するといつたものではなく、焼却用の不要物品を組合事務所前に放置したまま、ゴミ収集、清掃の際に焼却するといつた程度に過ぎないのである。

(4) しかして、被告会社の就業規則七三条一項九号に定める「物品」とは、一般的客観的に、財産的経済的価値のある物品や、被告会社にとつて使用価値のある物品に限られ、組合所有の焼却用不要物品がこれに含まれないのは勿論である。

したがつて、原告が右ダンボール箱を持ち出した行為は、右就業規則七三条一項九号の「会社の物品を持出し」には該当しないのである。

(二) 就業規則七三条一項一一号の非該当性

原告が持出した本件ダンボール内には、組合の書類が入つていたのであるが、このような組合の書類は、被告会社の業務上重要な秘密書類に該当しないことは勿論である。右書類は、組合の秘密とはなつても、被告会社の秘密となるものではない。そして、組合員である原告が、右書類を見たとしても、それは組合員としての当然の権利であるのみならず、労働者の権利を守るべき立場にある組合が、利害の対立する被告会社に対して、その内容を察知されるかも知れない状態で、文書の焼却を委託すること自体極めて異常なことであり、被告会社と組合との癒着を示すものである。そして、右書類が、右の如く、その内容を被告会社に知られてもよいものである以上、組合にとつても、秘密文書に該当しないことは勿論である。

したがつて、原告が本件ダンボール箱を持出したことは、被告会社の就業規則七三条一項一一号の「業務上重大な秘密を社外に漏らし、又は漏らそうとした」ことには該当しないのである。

(三) 就業規則七三条一項一四号の非該当性

原告が持ち出したダンボール箱は、刑法上の財物に該当しない。すなわち、刑法上の財物というためには、客観的、主観的な価値が必要であるところ、本件ダンボールには、焼却を依頼する旨の貼り紙がしてあり、その内容物も、組合の書類であつて、客観的な経済的価値、交換価値のないことは明白である。また、本件ダンボール箱は、組合にとつても、伊丹工場の廃止に伴い、被告会社のゴミと一緒に焼却すべき不要物品であり、一方被告会社にとつても、単に焼却を依頼されたに過ぎない不要物品であつて、組合にとつても、被告会社にとつても、主観的価値のないものである。

そして、原告は、当時被告会社の伊丹工場廃止後の自己の終局的な配転先が定まらず、不安にかられていた際に、たまたま組合事務所前に置いてある本件ダンボール箱を見付け、その中に自己の配転先等に関する書類があるかも知れないと考え、一時的にその内容を見るために、本件ダンボールを持ち出したのであつて、その内容を見た後は、これを焼却するつもりであつたのであるから、原告には、本件ダンボールを不法に領得する意思はなかつたのである。

したがつて、原告が本件ダンボールを持ち出した行為は、被告会社の就業規則七三条一項一四号に定める「刑法上の罪に該当する行為」には該当しない。

(四) 就業規則七三条一項一七号の非該当性

原告が本件ダンボールを持ち出した行為は、何ら被告会社の就業規則七三条一項一七号に該当しないし、その他、原告が右条項に該当する行為をしたことはない。

(五) よつて、原告が本件ダンボールを持ち出したことは、何ら被告会社の就業規則七三条一項九号、一一号、一四号、一七号の懲戒事由に該当するものではないから、本件解雇は無効である。

3 思想信条を理由とする解雇(憲法一九条違反)

次に、本件解雇は、以下に述べる通り、被告会社において、原告が日本共産党に所属していること、日頃職場で労働者の権利を守る為に各種の活動を為していることを嫌悪して為した原告の思想信条を理由とするものであつて、憲法一九条に違反して無効である。すなわち、

(一) 被告会社は、組合の役員選挙に職制を使つて介入し、日本共産党員や労働者の権利を守ろうとする民主勢力を排除して、組合の御用組合化を図る一方、組合執行部と一体となつて、原告らが日本共産党員として労働者の権利を守るために行う諸活動を嫌悪し、様々な差別といやがらせを続けてきた。

(二) そして、組合は、労働者の要求を代表するものとはなり得ず、労働者の生活に重要な影響を与える配転問題で、一部の例外を除き、「労使は、…………共通の基盤に立ち、徹底した経営の効率化をはかることによつて、企業の安定、発展につとめるとともに、従業員の雇用の安定と労働条件の維持改善をはかり………」というような労使共同宣言を発表して、被告会社の合理化に無条件服従を宣言するまで堕落した。

(三) 被告会社は、このような組合を、民主的に改革強化して行こうとする原告らに対し、様々な攻撃を繰り返し、技術者の一人に対して、技術者としての仕事を取り上げ、被告会社の社屋から離れた部屋に独り隔離したり、賃金、昇格の差別をし、原告らの行う門前のビラまきに対しては、被告会社の職制や組合役員が一体となつて、マイク等による妨害、写真撮影等によるいやがらせを続けてきた。被告会社は、さらに、新入社員教育等において、「共産党は企業の破壊者である。職場の攪乱者である。」等という反共のデマ、中傷の教育を徹底して、原告らの組合民主化の運動を敵視、妨害してきた。

(四) 被告会社は、原告が昭和四六年九月の組合役員の選挙で職場委員に当選した頃から、原告を危険人物として注目し出した。

原告は、職場委員をしているうちに、組合が労働者の要求からかけ離れたものであることを実感し、労働者の権利問題について学習を強め、組合の定期大会等で積極的に発言するようになり、昭和四八年には、労働組合の民主的強化、労働条件向上のため、日本共産党に入党した。ついで、昭和四九年六月二四日には、日本共産党ダイハツ支部が公然化し、原告も、その頃参議院議員選挙のビラマキに参加し、その頃から、日本共産党ダイハツ支部機関紙「なかま」の配布を繰り返し行つてきた。さらに、原告は、昭和五〇年五月二二日、被告会社の竜王工場で発生した労災死亡事故(巽労災)について、労災認定闘争の先頭に立つて闘つた。

(五) 一方、原告は、伊丹市から表彰を受ける程の優秀な鋳物工であつたが、被告会社は、原告が日本共産党に入党した翌年の昭和四九年から、定期昇給における原告の査定を操作し、原告を昇給させずに据え置く等の差別攻撃をしてきた。原告は、職場内ではよく仕事をするとの評判であるのに、被告会社は、原告の成績が悪いのは、原告の思想に原因があるとほのめかし、原告は日本共産党をやめるなら、昇給ができるとの発言までしている。

(六) 被告会社では、昭和五一年一二月下旬頃をもつて、その伊丹工場を廃止して滋賀県の竜王工場に全部移転することとなつたのであるが、原告は、当初竜王工場への配転を拒否していた。そして、被告会社は、その後原告に出した右竜王工場への配転命令を撤回したところ、原告を除く全員について、その配属先が決つたのに、原告だけは、その配属先が決まらないまま、昭和五一年一二月二一日、遂に伊丹工場は閉鎖され、被告会社は、「君の引取先がない。」と称して、原告を、被告会社の本社総務部総務課に仮配転し、鋳物工である原告に対し、伊丹工場の清掃等の残務整理を命じた。

(七) このような状況の下で、被告会社が、原告を解雇する解雇理由もないのに、本件解雇をしたことは、とりもなおさず、原告の思想信条を理由に原告を解雇したものであつて、本件解雇は、憲法一九条に違反し、当然無効である。

4 解雇権の濫用

仮に、以上の主張が理由がないとしても、本件解雇は、次に述べる通り、解雇権の濫用であつて、許されないものである。すなわち、

(一) 解雇は、労働者に対し、重大かつ深刻な影響を与えるものであり、自己の労働力を売る以外に生活の手段を持たない労働者にとつては、職場を一方的に追い出されることは、即座に、生活に困窮をもたらし、生涯の生活設計を狂わすことになるのである。このことは、我が国のように、終身雇用制をとつている社会においてはなおさらである。従つて、解雇権の行使は、慎重な配慮の下になさるべきであつて、雇用契約関係の継続が到底不可能と判断される程の重大な事態とか重大な信頼関係の破壊があつた場合に、始めて許されるのである。

(二) これを本件についてみるに、前述の通り、原告が持ち出したのは、組合事務所前に放置されていた、焼却されるべき不要の書類であつて、凡そ被告会社の秘密文書とは考えようもないものである。このように、原告は、何の経済的価値もなく、被告会社の秘密とは全く無関係の文書を持ち出したに過ぎず、被告会社には何の財産的損害もなく、何の秘密も漏れていないのである。

一方、当時、被告会社の伊丹工場の中で、原告一人だけが、伊丹工場廃止後の勤務先が定まらず、その点で、原告は、不安を抱いていたところ、この不安の解消のためには、被告会社が具体的な説明をしない以上、自ら何らかのニユースを得、資料を見つけたいと努力するのは当然のことである。原告が、本件ダンボール箱を持ち出したのは、被告会社が今後の勤務地決定についての誠意ある努力とその説明をしない結果として生じたものである。

(三) 以上のような状況の下にあつては、原告が本件ダンボール箱を持ち出したことについて、何分かの責められるべき点があつたとしても、それは、原告と被告会社との雇用関係の継続を不可能とする程のものでないことは明確であるから、本件解雇は、解雇権を濫用したものとして当然無効というべきである。

5 なお後記五の2の被告会社の主張は争う。

五 右原告の主張に対する被告の答弁、主張

1 右原告の2ないし4の主張は争う。

2 原告は、その主張のように、原告の配属先未定の不安から、原告がその配属先についての何らかの資料を見出すために、本件ダンボール箱を持ち出したのではなく、日本共産党の為にする諜報活動として本件ダンボール箱を持ち出したのである。

すなわち、被告会社の清水主担当員は、昭和五二年一月七日、原告に対し、右残務整理終了後の原告の配属先が被告会社池田工場(かねてから原告が希望していた配属先である。なお配属課は未だ検討中であつた。)に決まつた旨伝えたから、当時原告において、その配属先がきまらないために、不安を抱いていたというようなことはないのである。また、かねて被告会社の機密に関する文書が、原告が入党してその活動に関与していたという日本共産党ダイハツ支部発行のビラ(乙第七一号証)、その他に利用されているところ、その入手経路は不明であるが、原告は、被告会社の秘密書類入手の願望を常々抱いていたと考えられるから、本件ダンボール箱等持出行為もそのような日本共産党の諜報活動として計画的に為されたものと断ぜざるを得ないのである。

第三証拠〈省略〉

理由

一 雇傭契約等

被告が、各種自動車の製造販売を主たる業とし、大阪府池田市に本社工場を、京都府大山崎町、滋賀県竜王町、兵庫県川西市等に工場を有し、従業員約八二〇〇名を擁する株式会社であること、原告が、中学卒業直後の昭和四〇年四月、被告会社と雇傭契約を結んで被告会社に入社し、被告会社技能者養成所(現ダイハツ高等学園)で三年間鋳物工としての訓練を受け、昭和四三年四月一日、被告会社伊丹工場製造課に配属され、それ以降工場で鋳物工として自動車部品の鋳造の職務に従事してきたが、右伊丹工場の廃止により昭和五二年一月一日付で、被告会社総務部総務課に仮配属され、実際の職務としては、右伊丹工場の残務整理に従事していたこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

二 本件解雇

次に、被告会社が、原告には被告会社就業規則七三条一項(懲戒事由)の九号、一一号、一四号、一七号に該当する行為があつたとして、昭和五二年二月八日付をもつて原告を諭旨解雇にし、右同日以降原告の就労を拒否していることは当事者間に争いがない。

三 本件解雇の効力

そこで次に、本件解雇が有効であるか否かについて判断する。

1 原告が被告会社伊丹工場の残務整理に従事中の昭和五二年一月一七日午後三時頃、右工場厚生棟内にある組合(ダイハツ労組)伊丹支部事務所前に置かれていた本件ダンボール箱二箱を無断で右工場外の付近民家(三谷某方)横まで持ち出してそこに置いておいたことは当事者間に争いがない。

2 そして、被告会社の伊丹工場が滋賀県の竜王町に移転することとなり、右伊丹工場が昭和五一年一二月下旬をもつて閉鎖されたことは当事者間に争いがなく、右事実に、前記一、三の1の事実、成立に争いのない甲第一号証の一ないし四、同第二一号証の一、同第二三号証、同第二六号証、乙第一九号証、同第二一号証、同第二五号証、同第四二号証、同第五二、五三号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第三〇、三一号証、同第三三号証、同第三八号証の一、二、同第三九号証、証人小河原嘉康の証言により真正に成立したと認められる乙第三四号証の一、その方式内容その他弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三四号証、同第三七号証、乙第四号証ないし第九号証、同第一八号証、同第三〇号証ないし第三二号証、同第三四号証の二、証人清水日佐夫、同小河原嘉康の各証言、原告本人尋問の結果(但し、乙第四号証ないし第九号証、同第一八、一九号証、同第三一、三二号証、同第五二号証の各記載内容、及び、証人清水日佐夫、同小河原嘉康の各証言中、後記信用しない部分は除く)、並びに、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。すなわち、

(一) 被告会社の伊丹工場は、自動車用アルミ鋳物鉄鋳物などを製造する鋳物工場であつたが、被告会社では、右伊丹工場を滋賀県竜王町に新設された竜王工場に移転することとなり、昭和四九年四月頃から、労使間で交渉を行い、被告会社の従業員でもつて組織されている組合(ダイハツ労組)の同意を得て、昭和五〇年頃から右移転を始め、その後昭和五一年一二月下旬頃、右移転を完了し、伊丹工場は閉鎖されたこと、

(二) 原告は、昭和四三年四月頃から、被告会社の伊丹工場製造課に配属され、同工場で鋳物工として働いていたところ、前記の如く、被告会社の伊丹工場が竜王工場に移転することになつたので、被告会社では、昭和五〇年頃から、原告に対し、竜王工場に転勤(転籍)するよう再三求めたが、原告がこれに強く反対したので、被告会社は、最終的に原告を竜王工場に転勤させることを断念し、伊丹工場が閉鎖された後の昭和五二年一月一日付をもつて、原告を被告会社総務部総務課に仮配置し、それ以後右伊丹工場において、その残務整理の仕事に従事させていたこと、

(三) 次に、被告会社伊丹工場が閉鎖される以前は、同工場の厚生棟(二階建建物)の二階に組合の伊丹支部事務所があつたところ、右伊丹工場の閉鎖に伴い、組合の事務所も閉鎖されることになつたこと、

(四) そこで、組合では、組合事務所内の整理をすることとなり、組合の小河原伊丹支部長が、昭和五一年一二月頃から、時折右伊丹支部の組合事務所にきて、組合の書類を、竜王工場の組合事務所へ送るものと焼却するものとに分け、これをダンボール箱に詰め、被告会社に右竜王工場の組合事務所への送付や焼却を依頼していたところ、昭和五二年一月一〇日頃も、右小河原支部長が、組合の書類を、竜王工場に送る分と焼却する分とに分け、これをダンボール箱に詰め、竜王工場の組合事務所に送る分については、ダンボール箱の上に紙を貼り、これに黒のマジツクインキで、「竜王送り 小河原」と記載し、また、焼却する分については、同じくダンボール箱の上に紙を貼り、これに赤いマジツクで、「焼却して下さい 小河原」と記載した上、被告会社の清水主担当員に、右竜王工場の組合事務所に送る分の送付と、焼却する分の焼却を依頼したこと、なお、右ダンボール箱は、勿論組合所有のものであつたこと、

(五) ところで、右の如く、小河原支部長が被告会社の清水主担当員に送付及び焼却を依頼したダンボール箱は、その後組合事務所内やその他の室内に保管されていたようなことはなく、いずれも組合事務所前の室外に置かれたまま放置されていたこと、なお、右ダンボール箱のうち、焼却さるべきダンボール箱は二箱(本件ダンボール箱)であつたこと、

(六) もつとも、組合事務所のあつた被告会社の厚生棟には、当時鍵がかけられており、一般人がこれに立入ることはできなかつたが、原告ら伊丹工場の残務整理に従事していた者は、その必要に応じ、右厚生棟の鍵を保管していた被告会社の警士から鍵を借りて、厚生棟に自由に出入りすることができたこと、

(七) 原告は、前述の通り、当時、伊丹工場の残務整理に従事しており、ロツカーの掃除や、扇風機等の什器・備品の収集整理、ゴミの収集焼却等の作業に従事していたところ、昭和五二年一月一〇日頃から、右組合事務所前に右ダンボール箱の置かれているのを見付け、右焼却すべき本件ダンボール箱の中には、原告の配属先等に関係する書類が入つているのではないかと考え、右ダンボール箱を外に持ち出して、その中の書類を見ようと考えたこと、

(八) そこで、原告は、昭和五二年一月一七日午後三時頃、焼却すべきダンボール箱二箱(本件ダンボール箱)を、組合及び被告会社には無断で被告会社の伊丹工場外に持ち出し、右工場近くにある訴外三宅某方横の空地にこれを置いておき、後でこれをゆつくり見ようと思つていたこと、

(九) ところが、間もなく、右三谷某が本件ダンボール箱を発見し、被告会社に対し、右ダンボール箱が右三谷某方横の空地に放置されていたことについて、被告会社に苦情を申入れたので、被告会社が右事実を知つたこと、

以上の事実が認められ、右認定に反する前掲乙第四号証ないし第九号証、同第一八、一九号証、同第三一、三二号証、同第五二号証の各記載内容、証人清水日佐夫、同小河原嘉康の各証言は、いずれもたやすく信用できず、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3 次に、成立に争いのない乙第一号証、同第一四号証、及び弁論の全趣旨によれば、被告会社の就業規則では、七三条一項に懲戒事由を列挙し、その九号には「許可なしに会社の物品を持出し、又は持出そうとした者」と、同一一号には「業務上重大な秘密を社外に漏らし、又は漏らそうとした者」と、同一四号には「刑法上の罪に該当する行為をなした者」と、同一七号には「その他諸規則に違反し、又は前各号に準ずる行為をした者」と、それぞれ規定しており、また、同規則七二条には、懲戒の種類として、譴責、日給切替、減給、出勤停止、諭旨解雇(戒告のうえ三〇日以前に予告し、又は平均賃金の三〇日分を支給して解雇する。)、懲戒解雇、の六種類を定めており、さらに、被告会社と組合との労働協約では、懲戒について、二九条に、会社は組合員を諭旨解雇及び懲戒解雇に附するときは、あらかじめ組合の同意を得るものとする、との定めがあつたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

4 ところで、被告会社は、原告が本件ダンボール箱を持ち出したことは、前記被告会社の就業規則七三条一項九号に定める「許可なしに会社の物品を持出し、又は持出そうとした」ことに該当すると主張しているので、まず、この点について判断する。

(一) 本件ダンボール箱は、組合の所有のものであつて、被告会社の所有のものでないことは、前記2に認定したところから明らかである。

(二) 次に、前記2に認定した事実に、前掲乙第四号証ないし第七号証、同第一九号証、同第三二号証、同第三四号証の二、同第五二号証、証人清水日佐夫、同小河原嘉康の各証言によれば、原告が本件ダンボール箱を持ち出した当時、本件ダンボール箱は、被告会社の管理する厚生棟内の組合事務所の前にあつたこと、そして、当時、組合事務所の鍵は、被告会社において保管していたこと、したがつて、本件ダンボール箱は、一応被告会社の保管にかかるものであつたこと、が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、他に特段の立証のない本件においては、被告会社の就業規則七三条一項九号に定める「会社の物品」とは、本来、被告会社の所有の物品とか、被告会社が第三者から預つている物品であつても、将来その返還が予定されているとか、これを転売ないし利用して、社会経済的な利益ないし効果を挙げる等、一般社会通念上、社会経済的に価値のあるものをいうものと解すべきところ、本件ダンボール箱は、前記の如く、組合の所有のものであり、しかも、組合の小河原支部長が被告会社の清水主担当員にその焼却を依頼したものであつて、間もなく焼却されるものであつたし、かつ、後記の如く、本件ダンボール箱の中には被告会社の「業務上重要な秘密」に関する書類が入つていたとも一概に認め難いから、本件ダンボール箱は、被告会社の保管に係るものではあつたけれども、右被告会社の就業規則七三条一項九号に定める「会社の物品」といえるかどうか甚だ疑わしく、したがつて、原告が本件ダンボール箱を持ち出した行為は、被告会社の就業規則七三条一項九号に定める「許可なくして会社の物品を持出し、又は持出そうとした」ことに該当するともにわかに断定し難いのであつて、これに反する前掲乙第四号証ないし第七号証、同第一九号証、同第三二号証、同第三四号証の二、同第五二号証の各記載内容、証人清水日佐夫、同小河原嘉康の各証言はたやすく信用できない。

(三) のみならず、一般に、使用者の懲戒権の行使は、被用者の行為の程度、種類に応じて相当なものであることが必要であり、その行為が相当悪質で、解雇をするについて社会的に妥当性のある場合に限つて、解雇することができると解すべきところ、本件において、原告が本件ダンボール箱を持ち出した行為が形式的には被告会社の就業規則七三条一項九号に該当するにしても、前記2に認定した事実に、前掲甲第一号証の二、三、原告本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨によれば、本件ダンボール箱は、もともと組合所有のものであり、かつ、焼却されるものであつたから、一般の物品の如く、被告会社において、将来これを利用して一定の経済的、社会的利益やその他の利益を挙げ、または、享受することを予定していたものではなく、したがつて、被告会社がこれを喪失しても組合からその責任を追及されるとか、その他の社会的、経済的損害を被るようなものではなかつたことが認められるし、また、原告が本件ダンボール箱を持ち出したことにより、現実に組合ないし被告会社が損害を受け、被告会社の業務に影響が生じたことについては何らの立証もないのである。そうだとすれば、原告が本件ダンボール箱を持ち出したことは、非難されるべきではあるが、これを被告会社の就業規則七三条一項九号の「許可なく会社の物品を持出し、又は持出そうとした」行為に該当するとして、原告を、懲戒処分としては二番目に重い諭旨解雇の処分にすることは、苛酷に過ぎ、著しく不当であつて、解雇権(懲戒権)の濫用として許されないものというべきである。

5 次に、被告会社は、本件ダンボール箱の中には、被告会社にとつて重要な機密の文書が入つていたから、原告が本件ダンボール箱を持ち出したことは、被告会社の就業規則七三条一項一一号の「業務上重要な秘密を社外に漏らし、又は漏らそうとした」ことに該当すると主張している。

(一) そして、前掲乙第四号証ないし第七号証、同第一九号証、同第三二号証、同第三四号証の一、二、同第五二号証、証人清水日佐夫、同小河原嘉康の各証言中には、本件ダンボール箱の中には、竜王工場転籍者についての労使の個人面接簿、労使協議会・労使懇談会・生産委員会の各議事録、配転委員会議事録、住宅対策委員会議事録等の重要機密事項を記載した書類が入つていたところ、これらの書類は、被告会社の従業員の身上に関する秘密や、被告会社の機密に属する生産計画等、労使間の信頼関係に基づいて伝達されている秘密事項が含まれており、これが外部に公表されると、被告会社と組合間の信頼関係が破壊され、個人の秘密、名誉が侵害毀損され、会社経営上打撃を受ける虞れがあるとの被告会社の主張事実に副う趣旨の記載及び証言がある。

(二) しかしながら、本件ダンボール箱の中に被告会社主張の如き被告会社の業務上重大な機密に関する書類が入つていたならば、右書類は、すべて組合の伊丹支部の事務所に保管されていたことになるところ、右書類のうち、少なくとも労使協議会議事録や生産計画書などが、組合の本部でもない一支部の組合事務所に保管されているようなことは、一般的に極めて異例であつて、たやすく認め難い事柄である。また、本件ダンボール箱の中に、真実、被告会社主張の如き被告会社の業務上重要な機密に関する文書に入つていたならば、清水主担当員がその焼却を依頼された後は、すみやかに焼却されるべきであり、かつ、右焼却されるまでは、本件ダンボール箱は、室内や、その他第三者によつて容易に搬出されないような場所に保管されるのが通例というべきであるし、さらに、被告会社伊丹工場の残務整理に従事している原告ら従業員に対しても、本件ダンボール箱の中には、被告会社の業務上重大な機密に関する重要書類が入つていることを知らせ、その取扱いに気をつけるよう厳重な注意を与えるのが通例というべきである。しかるに、本件においては、前記の如く、本件ダンボール箱は、清水主担当員が焼却を依頼されてからすみやかに焼却されておらず、かつ、その後組合の事務所前に放置されていたのであるし(証人清水日佐夫は、本件ダンボール箱は、昭和五二年一月一四日頃組合事務所の前に出されたと証言しているが、右証人清水日佐夫の証言によるも、本件ダンボール箱は、原告がこれを搬出するまで二日以上も組合事務所の前におかれていたことになる)、また、被告会社が原告ら従業員に対し、本件ダンボール箱の取扱いについて気をつけるよう注意を与えていたとの事実を窺わせる前掲乙第四号証ないし第七号証、同第一九号証、同第三二号証、同第五二号証の各記載内容、証人清水日佐夫、同小河原嘉康の各証言はいずれもたやすく信用できず、他に右事実を認め得る証拠もないのであつて、このことは、極めて不自然というべきである。そして、このようなことや、前掲甲第一号証の二、三、原告本人尋問の結果等に照らして考えると、本件ダンボール箱の中に入つていた書類が、被告会社主張の如き被告会社の業務上重要な機密に関する重要な文書であつたか否かは、甚だ疑わしいというべきであつて、前記被告会社の主張事実に副う前掲乙第四号証ないし第七号証、同第一九号証、同第三二号証、同第三四号証の一、二、同第五二号証の各記載内容、証人清水日佐夫、同小河原嘉康の各証言はいずれもたやすく信用できず、他に右事実を認め得る証拠はない。

(三) のみならず、前記2に認定したところから明らかな通り、本件ダンボール箱の中の書類は、組合の小河原支部長が組合の書類を整理してこれを本件ダンボール箱に入れたものであるから、右書類は、組合所有のものであつて、被告会社所有のものではないというべきである。してみれば、仮に、本件ダンボール箱の中に、被告会社主張の書類が入つていたとしても、これは組合のものであるから、組合がこれを公開しないという特約を被告会社と結んでいるとか、その他特段の事情のない限り、組合において、右書類を一般組合員に公開するとか、その他の処分をすることは、本来組合の自由であるというべきであるから、右書類に記載されていることは、組合の機密とはなり得ても、被告会社の業務上重要な機密となるものではないというべきところ、本件における全証拠によるも、右特段の事情を認めることはできない。

(四) その上さらに、被告会社の主張する前記面接簿、議事録等は、被告会社がこれを作成し、被告会社においてこれを機密扱いにしていたとの事実を認め得る証拠はないし、また、仮に、被告会社において、右各書類を作成し、被告会社においてこれを機密にすべきものであつたとしても、その後、これが組合に渡されて組合の所有となつた以上は(右書類が組合の所有であることは、被告会社がこれを組合に渡したことから推認できる)、組合員によつてその内容が公表されたからといつて、その組合員が、組合に対して責任を負うことのあるは格別、被告会社の業務上重要な秘密を漏らしたとして、直接被告会社に対して責任を負うことはないと解すべきである。

したがつて、原告が本件ダンボール箱を持ち出した行為は、被告会社の業務上重要な秘密を漏らし、又は漏らそうとしたときに該当し、被告会社の経営上打撃を受ける虞れがあるとの事実を窺わせる前掲乙第四号証ないし第七号証、同第一九号証、同第三二号証、同第三四号証の一、二、同第五二号証、証人清水日佐夫、同小河原嘉康の各証言はたやすく信用できず、他に右事実を認め得る証拠はない。

(五) なお、被告会社は、被告会社の機密に関する文書が、日本共産党ダイハツ支部発行のビラ(乙第七一号証)、その他に利用されていたことを理由に、原告は、日本共産党の諜報活動として、計画的に本件ダンボールを持ち出したと主張している。しかし、被告会社の機密に関する文書が被告会社のビラ等に利用されたことがあるとしても、右被告会社の機密に関する文書を原告が持ち出したことを認め得る証拠はなく、ましてや、原告が、日本共産党の諜報活動として、本件ダンボール箱を持ち出したことを認め得るような証拠は何らないのである。却つて、前掲甲第一号証の二、三、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件ダンボール箱の中の書類が、被告会社主張の如く、被告会社の機密に関する重要書類であることを知らずに、本件ダンボール箱を持ち出したことが認められる。

(六) してみれば、原告が本件ダンボール箱を持ち出したことは、被告会社の就業規則七三条一項一一号に定める「業務上重大な秘密を社外に漏らし、又は漏らそうとした」ことには該当しないというべきである。

6 次に、被告会社は、原告が本件ダンボール箱を持ち出したことは、窃盗罪を構成し、被告会社の就業規則七三条一項一四号に定める「刑法上の罪に該当する行為をした」ことに該当すると、主張しているところ、前記認定の通り、本件ダンボール箱は、組合の所有であつて、かつ、被告会社の保管していたものであるから、それが間もなく焼却さるべきものであつたにしても、原告が本件ダンボール箱を持ち出したことは、一応形式的には、刑法上の窃盗罪を構成するというべきである(但し、それが法律上処罰に値するかどうかは甚だ疑わしいものというべきである。)。

しかしながら、原告が本件ダンボール箱を持ち出した行為が形式的には刑法上の窃盗罪を構成するにしても、前記2・4・5に認定したところから明らかな通り、本件ダンボール箱は、間もなく焼却さるべきものであり、また、本件ダンボール箱の中には、被告会社主張の如く、被告会社の「業務上重大な機密」に関する書類が入つていたことも認め難いし、さらに、原告が本件ダンボール箱を持ち出したことにより、組合及び被告会社が現実に損害を受け、または、その業務に支障が生じたことも認められないから、原告が本件ダンボール箱を持ち出した行為をとらえ、これを、被告会社の就業規則七三条一項一四号に定める「刑法上の罪に該当する行為をした」ことに該るとして、原告を諭旨解雇処分にすることは、甚だしく不当であり、解雇権の濫用として、許されないものというべきである。

7 さらに、被告会社は、原告が本件ダンボール箱を持ち出したことは、被告会社の就業規則七三条一項一七号に定める「その他諸規則に違反し、又は前各号に準ずる行為をした」ことに該当すると主張している。

しかしながら、原告が被告会社のその他の諸規則に違反した事実を認めるに足る証拠はない。また、右就業規則に定める「前各号に準ずる行為をした」とは、右就業規則七三条一項一号ないし一六号の各号に準ずる様な強度の違法性のある行為をした場合を指すものと解すべきところ、前記2、4ないし6に認定したところからすれば、原告が本件ダンボール箱を持ち出した行為は、右就業規則七三条一項一七号に定める「前各号に準ずる行為」に該当しないか、仮に、これに該当するとしても、そのことを理由として原告を諭旨解雇することは、著しく不当であつて、解雇権の濫用として許されないものというべきである。

8 そうだとすれば、原告が本件ダンボール箱を持ち出したことは、被告会社の就業規則七三条一項九号、一一号、一四号、一七号の各規定に該当しないか、該当するとしても、右各規定に基づいて原告を諭旨解雇にすることは、解雇権の濫用として許されないものというべきであるから、原告主張のその余の点について判断するまでもなく、本件解雇は無効というべきであり、原告は、引き続き被告会社の従業員であるというべきである。

四 賃金

そこで、本件解雇後の原告の受け得べき賃金、一時金の額について判断する。

原告は、原告が解雇された後の昭和五二年二月から同五六年八月までに、被告会社から支給されるべき原告の賃金、一時金の額は、別紙一の「賃金計算書(原告主張分)」に記載の通り、合計金一一九八万〇四五四円であり、また、昭和五六年九月以降原告が毎月支給を受ける賃金額は、月額金一九万一二九八円であると主張しているところ、被告会社は、別紙二の「賃金及び一時金計算書(被告計算分)」に記載の通り、原告の右主張額のうち、右原告主張の期間中の賃金、一時金の額については、合計金一〇六一万〇八三〇円の限度で、また、昭和五六年九月以降の賃金額については、月額金一六万七二九〇円の限度で、それぞれこれを認めているが、その余についてはこれを争つている。

ところで、原告の本件解雇後の賃金、一時金については、原告が、現実に被告会社によつて昇給昇格させられたことの認められない本件においては、右昇給昇格を前提とした賃金、一時金等の債権は発生しないものというべきであつて、このことや、被告会社が原告主張の賃金、一時金の額を争つていること等に照らして考えると、成立に争いのない甲第五〇号証、同第五一号証、同第五三、五四号証、同第五七号証、同第五九号証の一、二、同第六〇号証、同第六一、六二号証の各一、二、同第六三号証、同第六五号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四八号証、同第五二号証、同第五八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六四号証、同第六六号証、及び、原告本人尋問の結果等からは、原告の解雇後の賃金、一時金の額が、原告主張の通りであるとは認め難く、他に原告の賃金、一時金の額が、前記被告会社の認める限度を超えて、原告主張の通りの額であることを認め得る証拠はない。

してみれば、本件解雇後の原告の受けうる賃金及び一時金の額については、別紙二の「賃金及び一時金計算書(被告計算分)」に記載のとおり、昭和五二年二月から同五六年八月分までに支給さるべき額は、合計金一〇六一万〇八三〇円であり、昭和五六年九月以降に支給さるべき額は、月額金一六万七二九〇円であるというべきである。

そして、弁論の全趣旨により、昭和五六年九月以降原告に支給される賃金の支給日は、遅くとも毎月二五日以前であることが認められる。

五 結論

よつて、原告の本訴請求は、被告会社が昭和五二年二月八日付をもつてなした本件解雇の無効確認を求め、被告会社に対し、右解雇後の右未払賃金、一時金の合計金一〇六一万〇八三〇円、及び昭和五六年九月以降毎月二五日限り月額金一六万七二九円、の各支払を求める限度で理由があるから、右の限度で認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

別紙一 賃金計算書(原告主張分)〈省略〉

別紙二 賃金及び一時金(被告計算分)〈省略〉

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